おかげさまで 40 周年、これもひとえに光文社文庫を支え続けてくださった読者の皆様方のおかげです。 これからも編集部では「きらり、エンターテインメント」という40周年のキャッチにふさわしい作品を刊行していきますので、どうかご期待ください!
光文社文庫を代表する著者の方々からお祝いのメッセージをいただきました!
(五十音順)
創刊のときから、共に走り続けてきたという意味で、光文社文庫への思い入れは深い。 「三毛猫ホームズ」など、ノベルスからの文庫化の他に、「何か他でやっていない新しい試みを、文庫オリジナルでやろう!」と思い付いて始めたのが、「主人公が毎年一歳ずつ成長して行く」というシリーズだった。 第一作で15歳だった主人公杉原爽香が翌年の第二作では16歳。家族や友人たちもみんな一緒に成長して行くわけで、書き続ける楽しみもあったが、「毎年一作刊行する」という読者への約束で自分を縛るはめにもなってしまった。 その杉原爽香も、今51歳。こんな息の長いシリーズになるとは、作者も驚いている。この珍しい試みを支えてくれる光文社文庫には感謝しているが、さて、このシリーズはどこまで続くのか……。
中学生か高校生のころ、光文社文庫の『確率2/2の死』を読んだ。当時としては珍しい文庫書き下ろしで、光文社文庫の何周年かの記念フェアだったような気がする。「島田荘司」という作家名はその時に初めて知った。どうしてその本を買ったのかは覚えていないが、今、カバー裏のあらすじを見ると、これが非常に魅力的であるから、それに惹かれて買ったのだろう。分量もそれほどなく、一気に読んだはずだ。そして解説に、島田荘司の過去作についての説明が書かれていた。どれも魅力的で気になるものばかり、そこから島田荘司作品を次々と読んでいくことになる。高校生の時、『本格ミステリー宣言』を読み、島田荘司の提唱する「理論」を理解したと思い込み、実践したくて大学に入ると同時にミステリーをこっそり書きはじめた。つまり、あの光文社文庫『確率2/2の死』がなければ、たぶん、今は違う仕事をしていたと思う。
光文社文庫が四十周年を迎えた。真にめでたい話である。 思えば国家試験を終えたばかりの研修医だった私が、開業医になることを目標に、大学の医局に入ったのが二十五歳の時、ちょうど四十年前だった。そのときは将来開業医を辞めて、作家をするなど思いもよらなかった。その間に、三十七歳でデビュー、時代小説ブーム、出版不況、書店の減少と波風はあった。 それでも光文社文庫との縁は切れなかった。私のなかで最長のシリーズを含め、四十冊上梓している。全著作合わせて二百冊を超えるていどなので、どれだけ光文社文庫に頼っているかわかろう。日本人は本好きというのも過去になりつつある。他の娯楽に奪われたのは、作家がおもしろいコンテンツを提供できていないからだ。 今こそ肝心。 ともに頑張ろう、光文社文庫。
光文社といえばカッパ・ノベルス。松本清張か三毛猫ホームズか。世間的にはそんなイメージだったが、私がいちばん強く印象に残っているのは、島田荘司の本格ミステリ短編集だった。就職して、ハードカバーやノベルスが買えるようになったところに、『展望塔の殺人』(1987)、『毒を売る女』(1988)、『踊る手なが猿』(1990)の三冊を、刊行時に続けて読んだ時は、あまりのレベルの高さに打ち震えたものだ。長らく不遇の本格ミステリにその数年前から復活の兆しはあったものの、独り気を吐いていた島田荘司の作品を読むのは至福だった。その後、バブル期で仕事に忙殺され、全く本を読む時間がなくなり、身体を壊した挙句、リハビリがてら書き始め、会社を辞めて清書(この時の原稿が最初で最後の手書き原稿だった)して応募したのがデビュー作『六番目の小夜子』だった。光文社文庫が登場して、真っ先に買い直したのがあの三冊だったのは、当然と言えよう。
光文社文庫誕生から四十周年を迎えたそうだ。実におめでたい。わたし自身、当文庫との付き合いは二〇〇一年の夏目影二郎始末旅『破牢狩り』からだろう。以来二十三年、「吉原裏同心」、そして「芋洗河岸」シリーズと、向後も長い付き合いとなりそうだ。わたしにとって気がかりな光文社文庫は未だ執筆していない新作だ。当初十月に刊行を予定していた「芋洗河岸」の四巻だが、来春正月に変更となった。刊行が延期されたのは偏ひとえにわたしの責任だ。文庫書下ろしというスタイルで時代小説を刊行してきたが、八十歳を超えた辺りから創作力がとみに衰えた。この四半世紀に三百余冊の新刊を出し続けてきたころの元気はない。ともあれ光文社文庫との出会いは夏目影二郎始末旅全十五巻だ。わたしがこのシリーズを始めるにあたって意識したのは武骨な剣術家だった。ただ今わたしの時代小説は現代の世相や考えを反映したもので、女性剣士もしばしば登場する。つまり江戸期に時代を借りた現代小説に過ぎない。
『サクラ咲く』は、桜の季節になると、決まって重版連絡が来る幸せな文庫だ。 収録作は三作。うち二作は通信学習教材である進研ゼミ中学講座で連載されていた。連載前に取材した中学生の一人から聞いた言葉をよく覚えている。 「うちでは勉強に関係ないものは、小説も漫画も親が読んじゃダメって禁止です」 はっとして──「この教材はいいの?」と聞くと、こくんと頷いてくれた。その時から、私にひそかな目標ができた。この子のお母さんにも、必ずこの小説を最終回まで読ませてみせる(息子が取材を受けたんだから、きっと読むよね!?)。そして、その先、彼の家庭で「小説、読んでもいいよ」って言わせてみせる。 あれから十数年の時が経ち、あの時の中学生はたぶんもう、大人と呼ばれる年齢だ。タイトルに「サクラ」とあるせいか、春が来るたび版を重ねるこの文庫が、彼や彼の家族のもとにどうか届いていますように。 長く読まれる文庫になった幸せと感謝とともに、そんなふうに今も祈っている。
そりゃ、一番の思い入れといったら『ストロベリーナイト』です。単行本でも重版はいただきましたけど、文庫になったら、急に売れ出した感がありました。 この頃からです。重版ってのは当初の予測より売れたわけだから、つまり初版印税よりはボーナス的要素が強いのだから、何か好きなものを買ってもいいよな、と考えるようになったのは。それが今の、ギターコレクションの始まりです。 そのうち、まだ重版連絡ももらってないのに、昼間から楽器屋に、気になってるギターを見にいっちゃったりして。それがまた、けっこう稀少な一本だったりして。 これを逃したら二度と巡り合えないかも、どうする、どうする、と店頭で悩んでいたら、なんとケータイに電話がかかってきて。 でもそれは、光文社の単行本担当さんからで。 「ありがとうございます。『シンメトリー』の重版が決まりました」 文庫重版じゃないけど、まいっか、と思って買ったのを、今でもよく覚えています。
四十周年、おめでとうございます。文庫『舟を編む』は、辞書を作るひとたちの話です。装画の雲田はるこさん、デザイナーの大久保伸子さん、担当編集さんと相談し、装幀は「万物を用例採集する」イメージにしました。岩波書店辞典編集部の平木靖成さんが、お心のこもった解説を寄せてくださり、感激したのもなつかしい思い出です。私も、中国文学者の加藤徹先生から漢詩についてご教示いただきつつ、文庫特典の「馬締の恋文」を書き下ろしました。 大好きなかたたちとともに、思いをこめて作った一冊。光文社文庫に加えていただき、読者のみなさまに手に取っていただけること、とても光栄です。 私にとって忘れがたい光文社文庫は、大西巨人さんの『神聖喜劇』(全五巻)です。大傑作の大著を、文庫で読めるなんて……、神(ていうか光文社)に感謝! 時代を超えて残るのは、たぶんこの小説だろうと思っています。この機会に、ぜひお楽しみいただきたく、未読のかたに強くおすすめしたい作品です。
光文社文庫様。長年、ここには書き切れないほどお世話になって参りました。私のカッパ・ノベルス一作目で、思い入れもありプロットも気に入っているけどタイトルがいささか時代遅れ……だった『東京下町殺人暮色』の文庫新装版に、『刑事の子』という端的な新タイトルをつけてくださいました。還暦を過ぎた今となって振り返れば、呆れるほど突飛な設定だった『長い長い殺人』を、地道な営業努力の積み重ねで、代表作の一つに押し上げていただきました。 そういう自分の仕事のことを離れたら、私にとって光文社文庫といえば、他の何を置いても『半七捕物帳』シリーズです。青蛙房刊の美しい布装丁のセットを古本屋さんのショーウインドウ越しに眺めていたあのころ、文庫版の半七コンプリートはまさしく夢のようでした。合わせて怪談アンソロジー『影を踏まれた女』『白髪鬼(はくはつき)』なども刊行され、好きなときに好きなだけ岡本綺堂の世界にひたることができたおかげで、今日の私があります。本当にありがとうございました。
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