2019年、エブリスタさんと共催で、光文社キャラクター文庫大賞を募集いたしました。沢山の応募の中から大賞に選ばれたのは『ドール先輩の修復カルテ』です。人形を通して人生の喜びや悲しみが描かれ、非常に読み応えのある作品でした。
発売を記念して、特別インタビューをお届けします。
2019年、本作でエブリスタ小説大賞、光文社キャラクター文庫大賞を受賞。日本おもちゃ病院協会認定おもちゃドクター。他の作品に、亡き大切な人を生き返らせてくれる刑事が活躍する推理小説「神様刑事」シリーズ(TOブックス)がある。
エブリスタ小説大賞募集開始から、沢山のご応募をいただいて、その数にびっくりしたのですが、関口さんがエブリスタ小説大賞に応募したきっかけはなんですか?
関口 単刀直入に言うと「人形は人をハッピーにするから」です。はい、僕、変なこと言ってませんか?大丈夫ですか?安心してください。最後にはなるほどーってなるはずですから(笑)
誰でも小さい頃は人形にふれてたと思うんですけど、そのときどんな気持ちだったか覚えていますか?多分、大人になって人形を見るのとだいぶ異なる気持ちだったと思うんですね。人形の向こう側に今よりもっと臨場感ある形でイマジネーションが広がってたというか。ギュイーンってロボットで遊んだり、ねこのぬいぐるみとおままごとをしたり。でも成長するにつれ、そういうことが出来なくなりますね。どうしてなんでしょう?「現実」を知るからかもしれません。ギュイーンってやってても金稼げないぞ、夢から醒めろみたいな。でもそうじゃないぞと。人が豊かに生きていくためにこそ「ギュイーン」が必要だぞと。人形やぬいぐるみにもう一度ふれて「ギュイーン」を取り戻してみませんかと。そんな思いからエブリスタで描きました。うーん、伝えきれた気がしない。やっぱり、ここはどうぞ本編を(笑)。心をなくし気味な方や日々に生きづらさを感じてる方にこそドール先輩と出会ってもらいたいですね。きっとハッピーになれます。
前作「神様刑事」シリーズとはまた異なる、新たな魅力を持った『ドール先輩の修復カルテ』ですが、ご執筆の経緯を教えてください。
関口 誰でも思い出の人形やぬいぐるみって一つや二つあると思うんですけど、そういうものを元通り修理してもらえたら嬉しいと思いませんか? これを実現している日本おもちゃ病院協会の全国的取り組み「おもちゃ病院」の存在を知ったことが始まりです。デパートや児童館で開かれるおもちゃ病院は、おもちゃドクターによるおもちゃ修理ボランティアです。僕自身、父親が休みごとに工具箱を持ち出して修理や工作をしたり、母親が人形を作ったり飾ったりするのを間近に見て育ちましたので興味を持って、おもちゃドクターになるための門戸を叩きました。このとき会長の三浦さんや、その他皆さんの修理にかける情熱と喜びにふれ、なんて素晴らしい世界が存在するんだと。老後の趣味になる上、子供に笑顔でありがとうって言われるんですと嬉しそうに話す三浦さんたちの想いに感化されたというか。高価な品ではなくても思い入れがあるから直したい人形がある。それを直してくれる魔法使いみたいな人たちがいる。更に「うわー直った」と笑顔になる子供がいる。この感激は広めなくては、書かねばと。現実にこういう方々がいるということに力を得まして構想を練りました。
執筆にはどれくらいの時間がかかったのでしょうか。執筆に時間がかかった章などは、ありますか?
関口 紆余曲折ありまして発想から脱稿までで考えたら3年くらいかかってると思います。どう作品化しようかと考えたとき様々なアプローチがありました。現実のおもちゃ病院をそのまま切り取るのも一つの手ですが若い登場人物が不在で読者が付いてきてくれるだろうかなどと考えたり。また途中、清水真理先生の耽美的な球体関節人形の世界観に魅了された結果、今のドール先輩と雛太君のバディものに着地しました。
様々な過去や想いを抱えた人物が登場しますが、主人公や、登場人物たちにモデルはいるのでしょうか?
関口 特定のモデルはいません。ただ、おもちゃドクターの皆さんはある意味ドール先輩のモデルです。とりわけも日本おもちゃ病院協会会長にしておもちゃドクターである三浦康夫さんからは大きな影響を受けました。ドール先輩の祖父はきっと三浦さんのような感じだろうと勝手に想像しています。
日本一の美少年描きと絶賛されているカバーイラストのみやたかなさんについて、一言お願いします。
関口 編集者さんとイラストを描いて頂ける方を探していた際にツイッターでみやたさんの存在を初めて知りました。数多く候補が挙がる中、みやたさんの描く少年たちの美しさは圧倒的過ぎて、見た瞬間キターってなりまして即決でした。先日、この『ドール先輩の修復カルテ』のためだけに描いて頂いた直筆イラストも拝見しましたが、その美しいこと美しいこと。卒倒します。やはり、みやたかなさんの美少年は日本一ですね。今後益々ご活躍になると確信しています。
個展を開催すると原画は即完売で、その華麗な美少年世界に魅了される人続出中。
コピックにて作画しており、愛用コピックを入れたボックスは迫力がある。
原稿を読んだときの第一印象、一番印象に残ったお人形はなんでしたか?
みやた どのお人形も描写が本当に細やかで魅力的でしたが、なかでも瞳が桜の花びらのトンボ玉でできたテディベアが特に印象深かったです。
テディベアという可愛らしい存在でありながら、覗き込んだ人を瞳で魅了する奥ゆかしさが、可愛さと色気のアンバランスさを醸し出していて素敵だなと感じました。
ドール先輩と雛太君の、人物造形で難しかったところはありますか?
みやた 最初に物語を読ませていただいて直ぐに、二人とも容姿が浮かびましたが、共通して表情の設定にとても悩みました。
雛太君はお人形のように可愛らしく幼い印象でありながらも、冷静さを兼ね備えているため、フェミニンになりすぎないように。
ドール先輩は可憐な美少年でありながらも、個性が強く割とサバサバした男っぽい語り口調なので、麗しさを前面に出すのか、すこし意地悪そうな気の強い表情をさせるべきかとても悩んだ記憶があります。
完成した絵をご覧になった関口さんが喜んでくださったと聞き、編集者さんからも、「ドール先輩と雛太君がいます!」と言われて、ほっとしました。(註・編集より 正に物語で生きていた美少年二人がそこにいたので、黄色い声で喜びました!)