光免疫療法とは何か?

 小林久隆先生が開発した「光免疫療法」は、「手術」「薬物療法」「放射線治療」「免疫治療」に次ぐ、〝第5のがん治療法〟。世界最高峰の医療機関であり、小林先生の所属するNIHと排他的ライセンスを締結した楽天メディカル社とともに事業化が進められている。
 治療法はいたってシンプル。がん細胞に発現する分子(抗原)に結合する抗体薬「IR700」を投与した後、約24時間かけてがん細胞に薬を集め、近赤外光をものの5〜6分ほど照射するだけという手法である。
 メカニズムは、IR700と近赤外光が化学反応を起こし、がんに到達した時点でスイッチがOFFからONとなる。この瞬間に無毒だったものが毒となり、がん細胞を破壊する。この作用により、極めて選択的にがんの細胞膜だけを破壊することから、がんが壊れた瞬間に周辺のがん細胞がフレッシュなまま外に放出されるため免疫細胞を惹起し、再発・転移も抑える働きが期待できる。がんを壊しながら同時に免疫も上げるという革新のがん根治療法である。

 世界的に注目されるきっかけとなったのは2012年、当時のアメリカ大統領バラク・オバマ氏の一般教書演説で副作用の少ない夢のあるがん治療法として取り上げられたことである。その後2015年から米国で第Ⅰ相試験が開始され、日本でも18年3月から国立がん研究センター東病院で米国同様、頭頸部がんの扁平上皮癌患者を対象に、第Ⅰ相試験がスタート。その後、同治療法の治験が世界規模で行われており、第Ⅱ相試験までの報告では非常に良い結果を得ている。
 そして2020年9月25日、日本の厚生労働省から、早期承認制度により光免疫療法で使われる新薬『アキャルックス点滴静注』が世界に先駆けて正式に薬事承認された。対象となるのは「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」という条件付きではあるが、今後、光免疫療法が頭頸部がんのみならず種々のがんの治療法に寄与する可能性は高く、各方面から期待が寄せられている。