最新研究レポート

臨床医のがん転移部位特定に役立つ新しい蛍光プローブを開発

 CCR(Center for Cancer Research)の研究成果によると、新たに開発した化学物質が、蛍光によりがん微小転移巣を鮮明にすることができ、かつ安全であることがわかった。転移性卵巣がん移植マウスモデルで行われた実験において、Cyanine carbamatesと呼ばれる新しい化合物は複雑である生命システムにおいて大きな有用性を発揮する可能性が示された。この研究は、2021年4月12日、Journal of the American Chemical Societyに掲載された。
 「夜空を見た方が昼間よりもずっとよく星が見える。同様に、光がほとんどない視野中でがん細胞が蛍光を発していれば、がん細胞がよりはっきりと浮かび上がるため、より高感度で腫瘍を検出することができる、そして我々の化合物はその目的のために設計されている」と、分子イメージング部門の主任研究員である小林久隆医学博士は述べている。
 「臨床現場では、卵巣がんはしばしば微小転移を起こし、腹膜付近に小さな腫瘍を形成する。外科医はできるだけ多くの転移巣を取り除こうとするが、我々の蛍光プローブを用いて小さながんの結節を最適に可視化することで、すべて、あるいはほとんどすべてのがんの転移巣を取り除ける可能性がある」と述べている。
 どの化合物が最適な蛍光シグナルを発するかを理解することが重要である。可視領域の波長は、生体分子(特にヘモグロビン)に吸収され、顕微鏡下で細胞や組織切片を見るのに適している。しかし、近赤外波長を発する化合物であれば、可視波長では見ることができない腫瘍の奥深くまで見ることができる。
 ケミカルバイオロジー研究室の主任研究員であり、本研究の責任著者であるMartin J. Schnermann博士は、「どのような分子が活性化され、長波長の光を発することができるかを解明することは難しい問題であることから、私たちは自身の設計した化合物に興奮している」と述べている。「人間の体内の組織は近赤外領域の自家蛍光は低レベルであることから、これらの化合物を使用することでバックグラウンドシグナルを最小限に抑え、蛍光シグナルをより簡単に視認することができる」。
 これらの新しい化合物のもう一つの良い点は、毒性が低いことである。赤外線を利用する分子やナノ粒子の中には、正常組織に蓄積するものがある。しかし、この化合物はそのようなことがなく、体内から効率的に排出され、無害であることが証明されている。また、この化合物は感度が高いため、投与量が少なくて済み、毒性をさらに抑えることができる。
 Schnermannは「私たちはこれらの化合物の改良を続けており、これらの分子がまもなく臨床に応用できる可能性が十分にある。また前臨床試験において、この分子を使って動物でのドラッグデリバリー手法の開発や試験を行うなど、他にも興味深い応用が考えられる」と述べている。
 研究者らは、この化合物をがんが残存していないかどうかを確認する目的で、摘出した新鮮標本に使用したいと考えている。また、この化合物は外科的切除の時間を最小限にし、患者への負担を抑えるのに役立つと考えている。

https://ccr.cancer.gov/news/article/new-fluorescent-probes-developed-that-can-help-clinicians-pinpoint-cancer-metastases

Near-infrared compounds for visualizing enzymatic activity in living organisms
Image Credit: Usama SM, Inagaki F, Kobayashi H, Schnermann MJ. J Am Chem Soc. 2021 Apr 12

https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.1c02112