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鮫島がいる風景①

靖国通り画像

 鮫島は、欠けた櫛の歯のように横断歩道でところどころ停止している車の列を縫って走りだした。靖国通りは、人だけでなく車も渋滞している。最大の原因は違法駐車だが、各大きな交差点手前に配された、検問用の機動隊バスも車線を塞いで、拍車をかけていた。
 コマ劇場前に向かう道は、夜の新宿で最も人の多い通りだ。
(中略)
 それでも鮫島は、アベックの間をすりぬけ、酔ったサラリーマンの肩をやりすごし、長い髪をはねあげる娘たちの、その髪先をかわして急いだ。アルコールと食物と空調のほこりの混じった匂いが、香水と体臭を吸収し、歌舞伎町の奥に向かうにつれて、新宿の匂いを濃くしていく。

――『新宿鮫 新宿鮫1』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景② 鮫島がいる風景②

新宿御苑画像

 新宿御苑の塀のかたわらを進んだ。新宿御苑には、正門、大木戸門、新宿門、千駄ケ谷門と、四つの門がある。このうち大京町にある正門は、観桜会などの公式行事のとき以外は閉鎖されている。
(中略)
 新宿門の扉が見えてくると、鮫島は車のハンドルを切り、門前のスペースに乗りあげた。
 台湾閣が御苑内のどのあたりにあるのか、鮫島にはわからなかった。ダッシュボードから備えつけの懐中電灯をとりだし、赤色灯を回転させたまま、覆面パトカーをおりた。
 腕時計を見た。午前四時二十分。あと一時間もすれば、空が明るくなる。

――『毒猿 新宿鮫2』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景③

西新宿画像

 西新宿二丁目にある高層ホテルの、一階コーヒーラウンジに現われた男は、青紙専門の故買屋だった。
 奥に向かって細長い造りのラウンジは、入口の部分に巨大なシャンデリアが吊りさげられているほかは、各テーブルにおかれた小さなランプが照明になっている。
 シャンデリアの下で一瞬立ち止まった男を、鮫島は背中を向けたまま観察した。鮫島の位置からだと、エレベーターホールの壁にとりつけられた大きな鏡で、ラウンジの入口を見てとれる。

――『屍蘭 新宿鮫3』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景④ 鮫島がいる風景④

歌舞伎町画像

 夕暮れの靖国通りに、三人の少年が立っていた。向かって右端がジーンズの上下を素肌に着け、中央が七分袖のTシャツに黒のショートパンツ、左端は裾を落としたトレーナーにコットンパンツをはき、長く束ねた髪をキャップの後ろから垂らしている。
 三人とも銀製のネックレスや指輪をたっぷりと身に着けていて、通りの向かいから見つめている鮫島の耳にも、ジャラジャラと音が聞こえてきそうだ。
 年齢が十八歳より上ということはありえないだろう、と鮫島は思った。

――『無間人形 新宿鮫4』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景⑤ 鮫島がいる風景⑤

歌舞伎町 ラブホテル街画像

 殺人現場付近にも街娼の姿は少なかった。車がすれちがえないほど狭い路地の両側に、びっしりとラブホテルが並んでいる。ふだんなら街娼がうるさく声をかけてくるのだが、今日はその姿がない。
 現場となった路上にきて、鮫島は足を止めた。道端に清涼飲料水の空き壜がおかれ、質素だが花が活けられている。
 捜査員がおいたものだろうか。捜査員が殺人の現場に花をおき線香を立てるのは決して珍しくはないが、その花は古いものには見えなかった。

――『炎蛹 新宿鮫5』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景⑥ 鮫島がいる風景⑥

歌舞伎町 カラオケボックス画像

 神奈川県警本部から新宿に戻った鮫島が、香田と待ちあわせたカラオケボックスに到着したのは、午後六時を十五分ほど回った時刻だった。
 二人用の小部屋の前に立つと、ガラス扉の向こうから、低い演歌の歌声が流れてくるのが聞こえた。
 香田が歌っているのだ。案内のボーイが扉を開けると、香田はあせった表情でふりむき、マイクをおろした。
「つづけて歌えよ。カラオケボックスにきて一曲も歌わない方が変に思われる」
 鮫島は、冷やかすような口調ではなく、いった。
「うるさい。もういい」

――『氷舞 新宿鮫6』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景⑦

歌舞伎町画像

 鮫島は三十三歳だった。階級は、三年前と同じ警部のままだ。もはや誰も鮫島を「新任警部」とは呼ばなくなっていた。そして同期入庁組は鮫島をのぞく全員が、「新任警視」と呼ばれていた。
 同期とはいえ、階級社会である警察では、上下のちがいは絶対である。ふだんは「俺、お前」の口をきいていたとしても、いざことにあたれば、警視の命令に警部が逆らうのは許されない。

「会わないか」
 宮本から電話があったとき、鮫島は、正直とまどったのを覚えている。宮本は、警視庁公安部公安二課に配属になっていた。階級は警視。ひきかえ鮫島は同じく警視庁公安部の外事二課。ともに公安部でありながら、扱う事件の内容は、公安二課が左翼過激派、外事二課がアジア系外事事件というようにちがう。

――『灰夜 新宿鮫7』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景⑧

JR新宿駅画像

 JR新宿駅の東側には、東西に平行して二本の大きな道路が走っている。南側、JR新宿駅東口と接する形で走るのは新宿通りで、新宿御苑大木戸門のあたりで分岐した一本がJRの線路をまたぎ新宿駅南口前を通過して、甲州街道とその名をかえる。分岐した残りの一本は新宿駅の北側でJRの線路にぶつかり、新宿大ガード下を通過するもう一本の広い道路、靖国通りと合流する。
(中略)
 鮫島が足を止めたのは、サブナード三丁目の南東の端近くだった。歌舞伎町一丁目を南北に走る区役所通りに近い入口から階段を降りてくるアベックに気づいたのだ。男の姿に見覚えがあった。

――『風化水脈 新宿鮫8』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景⑨

新宿三丁目画像

 区役所通りから靖国通り、さらに新宿通りをつっきって、三越のわきを抜け鮫島は新宿三丁目の喫茶店「はなざわ」まで走った。
 岩木は明らかに刑事と会うのを嫌がっている。ここで会いそこねたら、それを理由に逃げ回る可能性があった。携帯電話の番号しか知らない現状では、今後着信拒否をされたらそれまでだ。
「はなざわ」の前までくると、自分より先にガラスの自動扉をくぐる男のうしろ姿が見えた。でっぷりと太っている。
 鮫島は荒くなった息を整えながら声をかけた。
「岩木さん?」

――『狼花 新宿鮫9』 新装版(光文社文庫)より

鮫島がいる風景⑩

区役所通り画像

「ママフォース」は区役所通りの雑居ビルにある、小さなゲイバーだった。かつては近くのゴールデン街などに似たようなバーが数多くあった。最近はゴールデン街も様相がかわり、若い女性バーテンダーばかりの「ガールズバー」ができている。〝悪所〟の歴史を背景に、どこか剣呑でイメージが暗かったゴールデン街に変化が起こっていた。歌舞伎町と並び新宿を代表する盛り場だが、管轄的にはゴールデン街は四谷署の管内になる。区役所通りを境に、東側が四谷署、西側が新宿署だ。

――『絆回廊 新宿鮫10』 新装版(光文社文庫)より